フィーメンニンは謳う [山口美由紀]
以前紹介した『タッジー・マッジー』の前に書かれた『フィーメンニンは謡う』です。
このお話の続きとして書かれたのが、『タッジー・マッジー』です。
続きというか、〈シルヴィ救済策〉といった感じもしますが・・・。(笑
そもそも『フィーメンニン』からすでに〈アルフレッド救済策〉であったはずなのですがね。
まあなにはともあれ、みんな幸せになったんだから良いじゃありませんか!
この時期の山口美由紀さんの絵が一番好きです。
ちなみにフィーメンニンとは、グリム兄弟にお話を聞かせた老婆のコト。
この漫画では主人公のリーナのお父さんのコトを指しているようですね。
まあもっと全体的な意味で、『普通の人が見ようとしない世界を見ることができる人々』
と、とることもできると私は考えています。
普通の人は確実にそこに『ある』のに、『見よう』としない。
でもそれらを『見る』ことを忘れなかった人達が『フィーメンニン』と呼ばれる人々だと。
私もかなり昔に『見る』ことを忘れてしまったようです。
もちろん今すぐにでも見えるものなら見たい!そんな気持でいっぱいです。
・・・実は私、昔から空想癖が激しくて、今でも道を歩いているとぼや~っと・・。
おとぎ話の世界、ほんとにあったらいいですよね、いや、実際あるんですよ。
私たちが忘れているだけで。
舞台はおそらく、ドイツ。主人公のリーナは奨学生をしています。
永遠のライバル、ユリウス・ブランテッド相手にテストで勝つのが目下の目標。
『貧乏苦学生には暇なんてない!』をモットーに勉強とバイトにあけくれる毎日。
そんなリーナがある日、登校途中のちいさな花畑のそばに可愛いいすを見つける。
それはその日の朝、例の鉄仮面ユリウスが、日曜大工で作っていったものであった。
なんとなくいすにすわって、いざ帰ろうと立ち上がり、もう一度振り返って見ると・・・、
そこにはなんと、真っ白な髪をした小さな女の子が眠っていた!
しょうがないので家につれて帰り、翌日お巡りさんに届けようとしたリーナ。
しかしあろうことかお巡りさんにはその女の子が見えないというのだ。
それだけではない、道行く人には誰一人として女の子は見えない。
『この子が見えるのは自分だけ』そう思ったリーナであったが、そこに一人の青年が。
けったいな格好の彼の名はシルヴィ、“ご領主様”の“姫君”を連れ返しに来たという。
だが彼の言葉の端々には不審な点があり、どうにも女の子を渡す気にはなれない。
彼の言葉の真実を確かめるため、リーナは彼の世界へ行く決心をした。
一人では心細いと、その場にいたユリウスをつれて。
先ほども紹介したとおり、シルヴィはタッジー・マッジーと同一人物です。
女運の悪さは相変わらず、というかこっちの方が早いお話なんですけど(笑)。
これは『フィーメンニン』に限らず山口さんの作品全般に共通して言えることですが、
“悪役が濃い”そして“彼らは決して悪役ではない”。
普通悪役ってのはとことん悪役というもんです。
『覚えてろよ~』の捨て台詞でさようならするのが通例です。
しかし、山口さんの作品では悪役は決して、悪役ではないのです。
たとえばこの作品のラミアドナ。彼女なんか典型ですね。
彼女の持っていた“力”は如何様にでも良い方向に使えたはずなんです。
でもそれをあのような人間の負の部分を増幅させてしまう使い方をしてしまった。
それは彼女の周りが、彼女の力を畏れていたからなんですね。
決して彼女自身が悪いわけではないんです。
山口さんの作品の悪役は、ほとんどが被害者です。
なにかに振り回され、なにかに追いつめられて・・・。
まあ唯一の例外がしめちゃんとか、髭男爵とか(笑)。
彼らは・・・、ギャグマンガですから(爆)。しょうがないっしょ!
この作品で私があえて推すのは、なんといってもフェロールくん。
ラミアドナのために、最後までそばにいる・・・。うわー、なんて健気なんだー!
すばらしいですよね、誰かのためにあそこまで尽くせる人って・・・。
最後達観したような、あのひょうひょうした態度も結構好きです。
『道連れだ、おまえらも・・・。』
女王が覚醒した瞬間のフェロールくんの顔は描かれてないけど、
私が思うに、笑ってたんじゃないかな。
彼は多分知ってたんですよ、かなり前から。
自分たちがこういうタイミングで滅んでしまうこと。
そういえば、あの髭なし坂浦ことオージーンさん(笑)、
彼は女王の復活の余波で死んだんでしょうか?
私としては、ちゃっかり生き残って悪態ついてる方にかけますけどね。
というわけで、この『フィーメンニンは謡う』、是非購入されることをお勧めします。
最後のシーンでは思わずほろりとくることをお約束しますよ。
(リーナ&ユーリの部分ではないですよ、花園から去るところ)
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